みなさんこんにちは。菊地あかねです。
今回は、chatGPTについてお話していきます。
chatGPTは私自身も使っていて、 言葉だけでなく、所作の領域にも今後浸透していくだろうなと思っています。なぜ人間に、言葉だけではなく所作が必要になってくるかを、石黒浩先生とお話していきます。
前回までに、私の子供の頃の経験と、社会になぜ所作を伝えていきたいのかというお話をしました。
大人になっても、人間関係や自分の家庭、 自分の人生などで、なかなか自己表現が素直にできないタイミングがあると思います。例えば、パートナーの人とぶつかってしまうなどといったことです。自分に余裕があったら、気持ちの余裕があったら、そんな伝えた伝え方をしないだろうに、やっぱり余裕のなさで思っていることとは違った伝え方をしてしまうことがあると思います。
私自身もプライベートでそういった経験をしますし、会社経営をしていると、対等な人間関係を築く難しさも感じます。心をお互いが素直に開いてコミュニケーションするって、 簡単にできることではありません。私自身も慣れてはきましたが、いつも自信を持てている訳ではなく、人間誰しもが簡単に解決できることではない部分です。
そんな中で大事なのが、所作だと思っています。もっと自分の所作をコントロールできるようになると、感情をうまく、滑らかに、相手に伝わるように伝えることができます。
最近、ヘルスケア領域のお仕事もさせていただいて感じるのが、いろいろなテクノロジーが進んでいるのに、命を経ってしまう人が減らないという問題の解決に、所作をデザインできる人が必要になってくるのではということです。
今もZ世代の人が自分で命を絶ってしまうニュースが取り上げられる原因には、外的要因も家庭の事情もありますが、防げるケースも多いように感じています。未然に防げる人間の自傷行為、あるいは相手を傷つけてしまうことを、所作の力で解決できれば、もっと日本全体も世界も柔らかく丸くなっていくのかなと思っています。
少し長い目線で私もそういったことに向き合って、若い方々が駆け込む時に所作というソリューションが用意されている環境を整えていきたいです。所作について話したり、あるいはデザインできる人がいたりすることが、本質的に必要だと感じます。
菊地:
対人関係は多様になっていて、昔の主人とゲストのような限定的なものではなくなりました。 もてなしも、相手の立場に立って物事を考えることが一般的になっています。共感する能力として、対人的深層共感力があります。
石黒:
もてなしというのは、形式があることが多いんですよね。こういう状況下ではこう振る舞うべきだ、というように。でも所作というは、その場で、その人に応じて、どういう風に 振る舞うと自分がもっと伝わりやすいのかとか、相手のことがわかるのかという、基本的な概念です。簡単に言うと、体全身を使って、人ともっと豊かにコミュニケーションするということです。
もてなしも、もちろん体の動きなどいろいろなものを使いますが、しきたりやルールがはっきり決まっているケースがあります。 日本だったら、お茶だったら、京都だったら、主人とゲストの関係においてこういう風に振る舞いますよというような、限定的な所作を使ってるということがあります。
菊地:
言語的コミュニケーション力と対人的深層共感力で出す所作は、今のAIでは決して出せないのでしょうか。
石黒:
いや、それはわからないですね。AIでもできる可能性は十分にあると思っています。
性能が高く、センサーが優れてるロボットがいれば、人より豊かな所作を表現できるものが作れます。かと言って、人間は所作を学ばなくてもよいのかというと、そうではない。
菊地:
「いい所作」がわからないと、その作業を行うのはAIで良いのか?と、使う場面の判断が難しくなりそうです。
石黒:
そうですね、ほとんどの人にとってはAIで代用されていく作業が多くなると思います。AIは所作の先生にさえもなるでしょう。
例えば、将棋。将棋において人は絶対にコンピューターに勝てないので、今将棋のトップの棋士は全部コンピューターに教えてもらっています。 しかし、人間は将棋をやめないでしょう。それは楽しいからですよね。
所作というのは人間にとって将棋よりさらに根源的なもので、これは人間として人と関わってコミュニケーションしていくためのものです。例えロボットが人よりもいい所作を身につけたとしても、人間は所作を学ぶことはやめないし、ロボットから学ぶ人も多くなっていくでしょう。なので、所作ロボットが出てくる可能性は十分にある。
それでも所作というのは、人間の生きる目的なので、なくなることはないです。
菊地:
今まで人間は所作を当たり前に使ってきて、自分の体や心をエンハンスするような動きの追及はしてきませんでした。しかし、AIのデザイン性も進化してきたため、これからは人間も所作を追及していかなければ、人間らしさ、人間ならではの表現が薄れていくのでしょうか。
石黒:
薄れるということではなく、もっと進化しなければならないですね。
菊地:
共進化ですね。
石黒:
もっといろいろな深い情報が共有できるようにならないと、人間そのものが発展していきません。ロボットがいろいろな作業をしてくれるようになるなら、人間の手足は何のために存在するのか。人間は、視線も手足も体の動きも全部使って、人と豊かに関わる。それが人生を豊かにすることであり、人間そのものを進化させることでもあると思います。
菊地:
ということは、chatGPTの存在は人の脅威ではあるけれど、所作をどう出すのかを人々がうまくコントロールしながら付き合えばいいのですね。
石黒:
脅威ではなく、人間の一部なのです。
例えば今、分からないことがあったらみんなスマホで調べていますよね。今後AIを使わないのは、今や当たり前となったスマホ検索を「今後はGoogleの使用をやめてください」というのと同じことです。スマホがあるからこそ、今のように必要な情報を誰もが得て考えることができるようになった訳でしょう。簡単な対話をサービスが全部やってくれたら、人間はもっと大事なことができるようになる。
働かないといけないなんてことはないのです。人間は人間として、豊かに生きればいい。その際に、AIが使えるなら使うし、ロボットも使うというのが人間と動物との違いです。人間も技術によって進化してきているので、遠い未来においてはもっと人間と技術が融合するでしょう。今スマホが手放せないように、脳の中にコンピュータを埋め込むのが当たり前の未来が来るかもしれません。
そのときに、所作はコンピュータがコントロールするかもしれない。でも大事なことは、自分の体をつかっていろいろなものと豊かに関わることです。今より簡単に所作を身に付けるために機械を使ったり、脳にコンピュータを埋め込んだりすることは、当然起こる可能性があります。AIは絶対に否定できない。AIを否定するのは、スマホもパソコンも捨ててくれ、というのと同じことです。それは絶対できないでしょう。
菊地:
AIによって失われる仕事があると言われていますが、先生はどう捉えていますか。
石黒:
過去にも自動車が発明されて、手で荷物を運んでいた人が仕事をなくしました。コンピュータが出て、文字を手で書いていた人の仕事がなくなりました。それと同じ歴史を繰り返しているだけのことです。もっと効率よく、クリエイティブな仕事はいくらでもあります。
菊地:
逆に、AIでは処理できない仕事も生まれますよね。
石黒:
そうそう、所作のデザインというものまで生まれてくるし、所作でいろいろなことをより豊かに伝えるという考えが、世界中で広がる可能性があります。ですから、AIは敵だとか、AIは仕事を奪うというのはナンセンスです。
菊地:
となると、自然と共存して、AIを対等に使いこなすということですね。
石黒:
人間の一部だと思わなければいけないですね。AI含め使えるものは全部使うことが、人間の進化なのです。重要なのは何をすべきかということで、そのひとつが所作なのです。人間の進化とは人といかに豊かなコミュニケーションをするかなので、今までにしていた体の動きを、もっと深いコミュニケーションができるようにしていく。日本には独特の所作があるといわれてきたけれど、それを世界に伝えることは大事です。所作が進化したら、戦争がなくなるかもしれない。
菊地:
本当にその通りです。この間、「戦争で毎日血を流している人がいる状況が続いているのは良くないよね」という話をドイツ人の方と話しました。戦争の背景には、宗教による考え方の違いや、相手の気持ちを無視したコミュニケーションがあるのでしょうね。
石黒:
十分に伝わっていないし、十分に相手の気持ちを考えられていないということですよね。殺そうとする相手に向かって十分にコミュニケーションをとれば、絶対に目の前の人を殺せません。
菊地:
そういう感覚を失った人たちが多くなっているのは、環境に原因があるのでしょうね。
石黒:
今の日本人にとっては、戦争するなんて考えようがないものです。それは、お互いに豊かな所作をもっていて、言葉でなくても気持ちが通じ合うようなノンバーバルコミュニケーションが優れているからなのですよ。
だから、AIが仕事を奪うというならば、いくらでも奪って下さい。人間はそうして進化してきたのですから。
菊地:
ノンバーバルコミュニケーションが優れているのに、日本人は感情表現があまり得意じゃないと言われているのは不思議ですよね。
石黒:
そうですね。外国人は、無理やり感情を表現して繋がろうとします。それは、ひとつの大陸の上に様々な文化が混ざっていて、多言語でコミュニケーションをとるため、分かりやすくしないと伝わらない状況なのです。一方日本は、ひとつの文化でもう2000年の長い歴史がある。過剰な感情表現や、所作的な自然な動きは、トレーニングしなくとも発達している訳です。
菊地:
すごくハイコンテクストで伝わりますよね。
石黒:
大げさな表現や、単純な感情で意思疎通をしているような人たちは、実はあまり深いところでは繋がっていないとも言えます。
菊地:
そうかもしれないですね。ではますます、日本の一般的な価値であるアンスポークンな部分が、人間の表現力においてひとつのエッセンスとなっていくかもしれないですね。
二回にわたり、石黒浩先生との対談の様子をお伝えしました。
心地よい伝え方、自分の心との心地よい向き合い方は、どんどん進化していく。そして人間はさらに豊かに生きられる。健常者の方も、体が不自由な方も、そういうクリエイティブな社会になると、今とは生き方がまったく変わっていくのかなと思います。
東京を拠点にするデザインスタジオKiQ(キク)のFounder & CEO、ディレクター。18歳で仙台から単身ニューヨークへの大学留学を経て、文化の奥深さを探究しに芸者修行。修行を通じて、和の振る舞いに感化される。デザインスタジオKiQでは、アート・文化・テクノロジーの調和をテーマに、これまでにないモノ・コトの再変換を行っており、マルチディシピリナリー(人種・世代を超えた多様な視点)な価値観をクリエイティブとともに提供している。所作コレオグラファーとしても活動し、人間やロボットなどの振る舞いを「所作」の概念でデザインする独自の専門家として国内外で活動。
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