皆さんこんにちは、菊地あかねです。
今回は石黒浩先生をお招きしてAIと所作について、人間がどうAIと向き合っていくか、そして今後所作がどうなっていくのかを踏まえてお話ししていきます。
石黒先生をお招きする前に、なぜ私が所作に着目してクリエイションに落とし込んでいるかをお話したいと思います。
所作という言葉からは、おもてなしやお茶、身のこなしの美しさを連想される方が多いのではないでしょうか。
私が所作について考えるようになったのは、幼い頃に体験したことがきっかけでした。
これは社会問題にも通ずるところがありますが、今の時代、自分の伝えたいことや心を上手く表現できない子が多くなっていると日々感じています。例えば、Twitterなどのソーシャルメディアが主流となり、匿名性の高いコミュニケーションが増えたことにより、リアルな人間関係を上手く築けないことも一つの要因ではないかと思います。
私が幼い頃は、まだソーシャルメディアが普及していませんでしたが、「大人はみんな嘘ついてるんじゃないか…」と考えるような敏感な子供でした。
特に小学生高学年の頃は、先生や親を含めた周りの大人を信用することができず、自分の感情を上手く言語化できませんでした。
今の時代でも、自分の殻に閉じこもってしまったり、助けを求めることができず、どうしたらよいかわからないまま、自分を傷つけたり命を絶ってしまう子供がいるかと思います。
更に広い視野で見ると、人間は調和し、助け合って生きていかなければならない中で、世界では今も戦争が起きていて、自分のエゴのために傷つけ合い、血を流しています。
その中で所作は、社会全体の平和や、自分自身を落ち着かせ、他人と上手く向き合う術になり得ると思います。
だからこそ、私はデザイナーという肩書きを通して、世の中に所作を伝えたいのです。
今はクライアントワークを中心に活動してますが、今後は自分のアートワークやテクノロジーで所作を表現していきたいと思います。
菊地:
今ChatGPTを含めAIに注目が高まっています。これからの時代、人間だけが発揮できる能力として、所作が考えられると思うのですが、石黒先生はどう思いますか?
石黒:
所作というのは、人間の進化にとって非常に重要なものです。今後は更に重要になっていくでしょう。
AI化はこれからもますます進み、広く使われていくと思います。
AI無しで働くというのはだんだん難しくなっていく。しかし、AIが出てきたからといって、人間は何も喋らず、何も表現しなくてもよいということには絶対ならないでしょう。より複雑で高次な情報をお互いに伝えたくなるというのが、AIで進化する人間の未来だと思います。AIは、人間の進化そのものですから。
今までは、生きること自体が大変でした。ご飯食べないといけないとか家を作らないといけないとか。
仕事も生きるために大事なものの一つで、そのためには様々なスキルが必要です。しかし、生きていくためのスキルがAIやロボットで代用可能になれば、人間は本来の生きる目的にもっと向き合えるようになるはずなのです。
人間にとって本質的に重要なことは、人との関わりの中に心を見出したり、命の大切さを感じたりすること。それが人間らしさです。
AIやロボットが生きることを支えてくれるようになると、人間はやるべきことに集中できる。
例えば、手というのは物を組み立てたり物を掴んだりするための道具として進化してきた。それが未来でロボットやAIに置き換わっていくと、人の手は表現手段に使っていくべきものになるのです。単に道具として使うのではなく、人同士が多様にコミュニケーションするために使えるようになります。どんなにAIが進化しても、コミュニケーションをしながら人とは何か、心とは何かを追求していくのが人間ですから。AIによって、人間は、もっと体全部を使って人や自然と関わり、心や自分を見つけていけるでしょう。
本来の人間として生きることに注力できるようになりますね。
その為、今後AIが進化するほどに所作が更に重要になっていくのです。
菊地:
私はもてなしと所作は、若干扱いが違うと思っています。もてなしとは、相手の無言の声に耳を傾けて、気持ちを察して何かをするということ。所作は、日常での言動一つ一つの一瞬に対する物事の動きの表現だと思うのです。もてなしと所作の違いについて、石黒先生はどうお考えですか?
石黒:
もてなしというのは、相手のことを考え、相手が気持ちよくなるように想像して、サービスするということではないでしょうか。所作も基本的には同じで、もてなしは人が気持ちよくなるための所作の一部だと思います。
所作は、人や環境との関わりの中で正しい心を感じ合ったり、豊かな表現力で自分や相手の存在を確認する基本的な人間関係を作るのに大事なものであって、所作を伝えることができるとよりホスピタリティのあるおもてなしに繋がっていく。
おもてなしはすごく限定されたお客さんと主人の関係だけで使われる言葉なので、所作は互いに心を感じ合うというもっと基本的なものだと思います。
菊地:
今までの非言語的なコミュニケーション力というのは、アンドロイドの研究だとどのような扱いだったのでしょうか?
石黒:
そもそも非言語のコミュニケーションの研究というのはほとんどやられてこなかったのです。
人と関わるロボットの研究というのは、20年前に僕や一部のアメリカの研究者が始め、だんだんと広がっていきました。人間のように動けるロボットが作れるようになり、その研究分野が広がったことによって、例えば、単に喋る機械や単に物を運ぶ機械がたくさん作られるようになりました。
人間のように体全身を使って、様々な非言語的な表現でコミュニケーションするロボットは最近まで存在しませんでしたが、今後はもっと増えてくると思います。ChatGPTもそうですが、ロボットは技術と結びつけて人間ともっと豊かに話ができるようにならなければいけない。
そして、ロボットと人間がコミュニケーションする上でも、人間の豊かな非言語の表現、所作というのものは大事になります。ロボットに所作の大切さを教えられる人も、増えてくるかもしれません。
いずれにしろ、人間はコミュニケーションするために生きているわけで。コミュニケーションが未来に向かってどんどん豊かになるというのが大事ですしそういう未来がくるはずです。
日本の文化において、身振り、手振り、所作というのは他の国に比べるとすごく豊かです。単に日本食や浮世絵のような物質的なものだけが世界で共有されるのではなく、所作に見られる日本の文化そのものが共有されて、世界にどんどん広がっていくと思います。
今日のゲストは石黒浩先生でした。
次回も石黒先生をお招きしてお話したいと思います。
東京を拠点にするデザインスタジオKiQ(キク)のFounder & CEO、ディレクター。18歳で仙台から単身ニューヨークへの大学留学を経て、文化の奥深さを探究しに芸者修行。修行を通じて、和の振る舞いに感化される。デザインスタジオKiQでは、アート・文化・テクノロジーの調和をテーマに、これまでにないモノ・コトの再変換を行っており、マルチディシピリナリー(人種・世代を超えた多様な視点)な価値観をクリエイティブとともに提供している。所作コレオグラファーとしても活動し、人間やロボットなどの振る舞いを「所作」の概念でデザインする独自の専門家として国内外で活動。
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