「2070年の生き方」を考える/テクノロジーと人間の関係性、そして所作のデザイン/ロボット研究の第一人者・石黒浩と菊地あかねが読み解く 04

石黒氏との対談04 <03はこちらから

人間が生きる上で大切な「問いのデザイン」とは

菊地が所作をデザインした女性アンドロイド

菊地:
生きてるということのは、私たち人間が当たり前のようにやっていること。
クリエイティブの視点だったり、技術の視点だったりで物事を「生きる」を解釈していくと、気づきがありますよね。

石黒先生が以前からおっしゃる「基本問題」みたいなことが、人間にとって大切な問いかと思います。

私のデザインスタジオKiQでも「問い」を常に考えていて、問題意識とか、なぜこうなんだろうと考えることは、クリエーションには大事だと思っています。

テクノロジーは「生きる」みたいな哲学的なこと、一生かけても解けないような問題と紐付けるのが、みんなに気づきを与えることと私自身も思っている。だから「問う」ことをすごく楽しんでいます。

石黒:
生きるってすごく重要な問いで、僕らは多分、命とか心とかそういったものがなんだろうとずっと探し続けているわけです。

技術の世界でそういうものを理解するアプローチは、まさに生きているものを作ってみて、それに対する人の反応を見てみるってことだと思っています。

人とロボットとか、人と環境、色々なものが関わりうる未来がやってくるわけですけど、その中で、互いに生きているという感覚を持ちながら同時に命とは何か、心とは何かという問いに対する理解を深めていく。

そういうことが未来で起こるといいなとか、そういう研究開発をもっと続けたいなと思います。

菊地:
すごいですね。やっぱりこう話していてブレない思いが感じられるなと思えて。
先生からは常にずーっと進化されたいという気持ちがあって、
そうして、私達にも調和している方だなと思っています。

石黒:
そういっていただけるとすごく、うれしいです。

2070年の「未来の生き方」を考える

菊地:
50年先の「生きる」ということは、どう変化していくのかという話を伺いたいです。

今、石黒先生も万博に取り組まれていたり、私自身もカルチュラルクリエーションをこれからも進化しながら行なっていくだろうと考えています。

未来をどう思い描くかということ、50年先ではどういう風に人間が生きているのかについて、クリエイティブと技術の視点でお話したいです。

色々あるお仕事の中で、「未来の人間」を定義をされていると思うのですが、
先生自身は今50年後についてどう思ってますか?

石黒:
50年先どうなるか、想像するのはなかなか難しいんですよね。

ただまずは万博の1つのテーマでもありますが、50年先の社会がどうなるかということを自分のパビリオンの中で表現したいと思っています。

どういう風にやっているかというと、今研究開発されている技術をまずは全部並べています。例えば量子コンピュータ、他には人間の老いを止めるような薬の開発とか。

そういうのを全部並べたときに、どういう未来が見えそうかというのを頭の中でシミュレーションし、それを万博のパピリオンの中で表現しようとしています。

いろいろな人とディスカッションしながらやっているんですけど、
私自身はある程度はこうなるんじゃないかという未来があります。

万博のプロジェクトも関係するので明確にお答えはできませんが、少なくとも言えるのはもっと「命を感じるようになる」とか、「心を感じるようになる」とか、「人が繋がるようになる」などです。

人は何のために生きているのかというと、モノを手に入れるためとか、お金を手に入れるためではないと思います。より深く人とつながって、文化を色濃くして、命は何か?とか、社会とは何か?ということを理解する。
そういう方向に人は進化していくと思うのですよね。

そういう方向性の中で、技術がどんどん進んでいったらどんな社会が、どんな人間の暮らしが訪れるのか、そんな感じで考えています。

答えはパビリオンの中で見てもらえればと思いますが、私自身はそれなりに納得できる未来を提示できるのではないかと思っています。それはプロデューサーとしての責任ですからね。

菊地:
50年先って全然想像がつかない方も多いと思います。

思い描いていくことで、それぞれの問題意識が明確になったりするので、思い描くことがすごく大事ですが、思い描くことはなかなかできないですし、今の時点でそういう話をされているのはすごく興味深いなと思って聞いてます。

石黒:
未来はどうなるかは誰にもわからないのですが、未来がどうなるか考えていることがすごく重要で、明日なにしようとか、今迷いなく自分に何ができる/できているか確認するためには、常に未来に対するビジョンがないとダメだと思います。

未来はこっちの方向に進むのだろうと考え続けておくと、今やっていることに迷いがなくなり、どんどんクリエイティブになれると思っています。未来を考えるというのは基本問題を考えるのとよく似ています。

基本問題を考えていくと必ず、それが未来に繋がっていて未来を変えていくので、どちらも同じようなことをしているような気がします。

量産型でない「進化し続ける女性」視点、そして未来のクリエーション

菊地:
私は女性としてクリエィティブにおいて考えるのが、これからの社会とかクリエィティブ業界での女性のあり方。

菊地が所作を吹き込む作業を行っています

ある種、KiQは性別を超えた「ニュートラルな視点」を意識しているのですが、世の中のクリエイションの多くは男性目線で考えているのかな?とか、これじゃない感の強い、いわゆるジェンダーバランスが取れていないクリエイションは見かけます。

私は、日本の世の中でフェミニズムの視点が度を過ぎていて共感されていないとか、多くの場合に調和してないことを感じています。私自身も女性だから、選択肢が減るからって、それ自体がアンフェアだという風には思っていません。

プロフェッショナルの世界では男も女も関係なく、他にない腕のある人はそのポジションを必ず築くんですよね。そしてそうゆう人は、常に戦っているということは間違いはない。

そこに女性の割合をふやすには、働き方だけでなく、ロール自体を再変換/創造する勇気がいる。

個人ベースでは、きっかけや成功体験を試行錯誤しながらもデザインできる環境が必要だし、探求心を持ち続ける必要があるから、ハードルが高いまま。

私自身5年以上デザインスタジオをやっていて、女性の経営層やリーダーへの進出の壁は大きいと感じています。日本は労働人口の半分以上が男性だったり、同じジェンダー同士で群れたりする。経営者でも成功するチャンスは男性のほうが割合として多いとか、技術とかクリエイティブ業界でも感じているんです。

でも、人に対する俯瞰した視点、自由で強い独創性については、男性以外に強く感じることが多いんです。チャンスが拾いにくいだけで、女性が得意とする感性、俯瞰した人間の捉え方や突出できる役割はすごくある。環境に順応し、寛容に進化しつづけるのも本来の女性には得意だし、世の中がそういうふうになっていくのではないかなと。

石黒先生は、ジェンダーにおいて感じられている違いだったり、ジェンダーの壁を超えたクリエーションにおける共創をどう感じられてますか?

「直感」とジェンダーの関係値


石黒:

実は、私が研究しているヒューマンロボットインタラクションという人と関わるロボットの分野では、海外に行くと女性の方がはるかに多いんです。

ロボットのメカを作るのは男性が多いのですが、ロボットと人と関わる研究で、海外の重鎮と言われる人は大体女性だったりします。女性の研究者の重要性というのは僕は非常に実感していて、人との関わりを考えるのに女性の方が、適性があるのではないかと思っています。

男は人とは関係のないメカのデザインとかを一生懸命やっていますが、
非常に複雑でつかみどころのない人に関する問題は、女性の方がいい直感を持っていたりするんじゃないかと思うんです。

例えば、文化に関する直感とかもそうです。僕も菊地さんだけでなくいろいろな人から教わっています。

そういう「直感」を持っているのが女性で、複雑な問題、日常的に難しい問題を解くのは男性よりも女性の方が適性があるように思います。
ただ、まだそれがビジネスとか研究開発の中心的な課題になっていないだけで、これから徐々になっていくでしょう。

女性の場合はいろいろと体力の問題とか、身体的な問題、男性よりも長く働きにくいとかあると思いますが、そういうのはテクノロジーが解決していくのではないかと思います。

もっともっと快適な世の中になっていけば、女性も働きやすくなっていくし、
女性じゃないと解きにくい問題というのはたくさんあるわけですから、もっと女性が活躍するような時代がくるとは思いますね。

複雑で多様なものを受け止める

菊地:
私から見ると、男性は自信を持ちたい、ポジションを抑えたいという意識を感じることも少なくないです。競争社会があるから仕方ないですよね。

法則とか思考に頼ったり型にはまりやすいというか。例えば元々海外にあった思想を日本的に定義することとかで、分野を作ろうとする。その情報を手に取った人も、自分の上司の人とか経営者に対して説明できるための、武器のようなある種の強がりのようなものを感じてしまう。でも、実はクリエイティブをきちんと体現されてる一流の経営者たちは、そういうことも全て見抜いていることの方が多い。

マーケ視点では正しいと思うのですが、女性はもっと寛容であり、自由であり、型にはまりたがらないところがある。「所作」を大切にすることも、ある種そういう量産型を逸脱できる可能性があると思っています。

男性が創造力を持って所作を身に着けたら、もっと調和できるといいますか、交われる社会になれるような気がして。テクノロジーが助けてくれたらいいのではないかと思います。

石黒:
男性がそういう風になれればいいと思います。僕も研究の幅を広げて、本来女性が得意とするような問題も自分でも扱わないといけないことが多くあります。
だから技術や、とんがった立場で生きてきた今までの男性的なやり方から、複雑な多様なものを柔軟に受け止める女性的なやり方に、今後変わっていかなくてはいけないと思っています。

男性が逆に女性の特性をうまく取り入れて、女性的な視点で問題を解決していけるような技術が実現できるかもしれない。そういう技術が作られると男性の仕事の幅も広がるような気がします。

菊地が所作をデザインした女性アンドロイド

菊地:
逆に女性が一般的に苦手と言われている、例えばものごとを論理立てて考えるとか、物事を正しく言語化するとか。物理的な力の違いとか、そういう視点が共有できていくと、また世の中も変わりそうですね。

石黒:
そうですね。
僕は男性女性それぞれの特性を生かすべきだと思うのですが、技術がそれを橋渡しして、男性が女性的に、女性が男性的に、モノを考えていける。
男性と女性の間のもっと本質的な交流というか、仕事の連携ができるようにするいはことは大事なことだと思います。

菊地:KiQ(キク)では対話や聞くことをベースとしたクリエイションを大切にしています。今回は、石黒浩先生をお招きさせていただきました。
またお話しましょう!ありがとうございました。

石黒:
ありがとうございました。

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菊地あかね

東京を拠点にするデザインスタジオKiQ(キク)のFounder & CEO、ディレクター。18歳で仙台から単身ニューヨークへの大学留学を経て、文化の奥深さを探究しに芸者修行。修行を通じて、和の振る舞いに感化される。デザインスタジオKiQでは、アート・文化・テクノロジーの調和をテーマに、これまでにないモノ・コトの再変換を行っており、マルチディシピリナリー(人種・世代を超えた多様な視点)な価値観をクリエイティブとともに提供している。所作コレオグラファーとしても活動し、人間やロボットなどの振る舞いを「所作」の概念でデザインする独自の専門家として国内外で活動。