Art, Communications, Data Visualization, Digital, Experience,
TEDxに全編英語のスピーチが公開されました。その日本語訳を公式サイト限定で掲載します。
スピーチ全編和訳 あなたは日常に潜む暗黙知の世界、名のなき瞬間を覗いたことはありますか?私はそれを「Unspoken Experience」とよんでいます。 その瞬間を調和というクリエイティブで生みだすことで、人々に発見させその後の価値観に働かせていくことが私のスタイル。 一瞬一瞬のストーリーのために、ひとつの世界観から醸造させて思考を練り直していく。何度も、何度も。 直接的なコミュニケーションができなくなってしまった時、私たちは新しいコミュニケーションのかたちを探していくことになるでしょう。 その上で、人間の動きのながれと瞬間をあらわす「所作」の価値、暗黙知の中に存在するコミュニケーションのかたちを探します。 所作は人間の動きのひとつひとつで、その流れにはこころが存在しています。2年前にSXSWで仮想現実の中で日常を一旦忘れ没頭させるため、人々がいけばなをいける所作に対峙するきっかけとなる作品をディレクションしました。非日常から生まれる癒しと、日本ならではの和み、再発見とともに、ひとときを大切にする追体験。美意識をもち、いのちあるものに触れ、相手のために創造するという感性。人生において大切にするべき価値観やヒントが、その自身のこころを花を生けることを通し映し出すという所作に眠っている。そう改めて感じたのです。 その1年後、私は寺の儀式に対しあたらしい所作のかたちを考えました。そこで話される法話というコミュニケーションに進化を与えました。 寺では欠かせない、法事というしきたりに対してのことです。故人との対峙で貴重なひとときでありながら法事は定期的に親族が集まるとき、法事そのものにありがたみを感じる人は多くはありません。 しきたりとともに形式化され、人々にとって義務と捉えられてしまっているからです。かつてはそれが美学とされてきましたが、時代は急速に変容しています。 だから、その在り方を変えることを試みました。そう、法事の根本的な形式自体は変えずにです。 寺離れにより、法事では中心が六十代以上の世代になっていて、自分ごととして考えられるという人は多くはありません。 私は法話には多様なストーリーやシンボルが存在することを学び、その宗派で大切にされる寺社建築や、内部構造の意味に着目しました。 たとえば龍の彫刻は、阿弥陀如来の守神として存在するシンボル。蓮の花は、個々が様々な色で輝くといういのちの多様性が法話で伝えられています。寺には様々なストーリーが存在するのにもかかわらず多くの人は そこを見ていないということ。そのようなしきたりの暗黙知の中に、人々に「発見させる」という新たな所作を加えました。住職の法話を聞きながら、内陣や外陣の構造に、仏具(と見立てたiPad)をかざすと、ストーリーのひとつひとつが墨絵とともにあらわれ、視覚の拡張とサウンドデザインのしかけにより、あらたな調和と世界が広がりました。 効果はすぐにあらわれ、世代関係なくこの仏具を体験した人々は「しきたり」に対する固定概念がはがれ、これまでの義務の時間に、興味をもつようになりました。「姿勢」や「構え」を変えるだけで時間の過ごしかたが変わっていったのです。 一方通行だったコミュニケーションにおいて、所作を与えることにより、双方がスムーズに分かり合える。それは、対人間においても同じことのように思います。見えないことが多いからこそ、自分や相手の所作の在り方に目をむけ、こころのうちを感じ取り、伝える。私は、傾向や規定、最新技術だけに焦点をあてた未来派のアプローチに対し懐疑的な姿勢です。だからこそ私はこのデジタルデバイスであるiPadがまったく姿を見せないケースを作り「仏具」と見立てました。 私の作品では浮かんでは消えゆく瞬間そのものを紡いでる。それは、普段見えないようなもの。手法や技術だけでは語れない、自分やだれかの姿勢というものが体現されることであらたな価値を見出しそれが「所作」という構えに結実する。外に見えるアウトプットだけではなく、そのひみつは過程にあって、単なる瞬間のポーズではなく、その「流れ」。それが先人たちにより生み出されてきた、所作の数々であると気づいたのです。見えない部分にこそひみつが隠され、そこには想像をはるかに超えるような世界が広がっている。その瞬間を作り出し、所作をみいだすのは、私のような表現者だけではなく、あなたの構え次第。 私は今、オランダのチームと所作ひとつひとつを表す旋律をつくり、オンラインでの「名のなき体験」に落とし込むプロジェクトを行っています。そのハーモニーは音楽の核心であり自分を表現すると同時に、深くコミュニケーションをとる魔法の方法だと彼らは言いました。素晴らしい音を紡ぐ大きなオーケストラのように、所作はすべてのハーモニーで、日常生活のその側面そのもの。 私たちのプロジェクトは、その動きを世界にもたらしています。まずは研ぎ澄まし相手を見て、俯瞰して考えるこころを持つこと。今必要とされている所作を想像し、実際にあなたも体現していくのです。 私自身もその瞬間を見逃さないように、これからも創出しながら生きていくと決めています。 そう、流れるように。
TED
CAMERA : 宮原夢画
COLLABORATORS : 麻田弘潤 (極楽寺) / BBmedia / 若井玲子
SOUND DESIGNER / EDITOR : Supesu Nøf / MIKE VELDHUIS
WORDING : JONAS MARCZY
HAIR MAKE : 古川美佳
VIDEO EDITOR : imuze
DIRECTOR : 菊地あかね
2020
TEDx TeikyoU
Art, Communications, Data Visualization, Digital, Experience
https://www.ted.com/talks/akane_kikuchi_unspoken_experiences_dec_2020